腹部ヘルニアセンター

腹部ヘルニアは、さまざまな原因で腹壁や横隔膜を構成する筋肉や組織が脆弱になり、腹腔内臓器が脱出(おなかが盛り上がる、胸やけやつかえ感などの症状がでる)することによって生じる疾患で、治療の遅れは、時に嵌頓し、腸管壊死や患者のQOLの低下につながることも少なくありません。疾患として代表的な鼠径部ヘルニア(外鼠径・内鼠径・大腿・閉鎖孔:脱腸と言われています)の他に、腹壁ヘルニア(臍、白線、半月状線、腹壁、傍ストマ)、逆流性食道炎(GERD)の原因となる食道裂孔ヘルニア、先天性横隔膜ヘルニア、ヌック管水腫など多岐にわたります。本邦において、鼠径部ヘルニアだけでも、年間に13~15万人の手術治療が行われています。また、高齢者や肥満人口の増加と相まって、腹部ヘルニアを発症する患者が増えることも想定されます。子供の外鼠径ヘルニアは、先天性な要因で発症し、小児の中では手術件数が最も多く、治療方法も大人とは異なります。当センターは、内科・外科・小児科の専門のスタッフが協力して治療指針やガイドラインに基づいた診断を行い、標準治療から、再発による難治例や複雑例など患者個々に対する最適な治療に対応しています。

診療部門からのごあいさつ

部長 佐野力

部長 佐野力

当院では、これまで多くの腹部ヘルニア全般の治療を行い、日本でも有数の実績となりつつあるとともに、学外の医師の手術指導や教育も行っています。今回、さらなる充実と患者さんへの適切な治療提供をめざし、大学病院としては、日本初の「腹部ヘルニアセンター」の設置をすることになりました。今後は、シームレスに関連診療科と連携を深め,腹部ヘルニアの高度かつ最新・最良の治療を提供し、腹部ヘルニア治療の拠点施設を目指しています。身近には、脱腸と言われる鼠径ヘルニアや腹壁ヘルニア、逆流性食道炎(GERD)の原因である食道裂孔ヘルニアなどは、外科治療のなかでも、唯一、修復術(Repair)という名称が用いられ、特有の治療が必要です。治療方法も、従来の開腹術から昨今の技術革新にともない、腹腔鏡手術やロボット支援手術が開発され、手術アプローチも多岐にわたっています。また、逆流性食道炎の大きな誘因である食道裂孔ヘルニアには、内視鏡治療も始まろうとしています。一方、難治性、複雑性の腹部ヘルニアの診断や治療、術後の再発や慢性疼痛が問題となり、当該領域を専門に扱う治療部門や医師の必要性が高まっています。当センターでは、あらゆる腹部ヘルニアの確実な診断と最適な治療を提供いたします。

主な対象疾患

鼠径部ヘルニア(外鼠径・内鼠径・大腿・閉鎖孔)、腹壁ヘルニア(臍、白線、半月状線、腹壁、傍ストマ)、食道裂孔ヘルニア(逆流性食道炎、GERD)、先天性横隔膜ヘルニア、ヌック管水腫、その他(心嚢内ヘルニアなど特殊なもの)

専門外来

腹部ヘルニア外来

統括責任者 外科 : 佐野 力(部長)
外来担当医 外 科 : 齊藤卓也(副部長)
内 科 : 井澤晋也(副部長)
小児科 : 本間 仁
受診方法 直接受診していただくか他院からの紹介の方は医療連携を介して事前予約をお取りください。
診療日時 外来担当医表はこちら

専門医療

腹部ヘルニア手術全体としては、年間300例(成人200例、小児100例)程度の手術治療をおこなっています。ヘルニア嵌頓による腸閉塞や腸管壊死、症状の強い患者さんの緊急手術にも対応しています。また、2022年4月からは、鼠径部ヘルニアについては、平日はお忙しい方のために、土曜日に手術(金曜午後入院あるいは当日入院)し、問題なれば日曜日に退院することも可能になりました。外来担当医にお申し出ください。


腹腔鏡手術

当センターで扱うすべての疾患の第一選択となります。すべての手術に、内視鏡外科学会技術認定をヘルニア領域で取得した医師あるいはその指導医が関わっております。代表的な疾患である鼠径部ヘルニアも、手術以外に治療法はありません(手術写真は以下)。成人と小児では手術方法が異なります。また、術後疼痛にも留意した手術をおこない、論文も報告しています。

腹腔鏡手術(成人)

腹腔鏡手術(成人)

外鼠径ヘルニア

外鼠径ヘルニア

メッシュ留置

メッシュ留置

腹膜閉鎖

腹膜閉鎖

腹腔鏡手術(小児:単孔式)

腹腔鏡手術(小児:単孔式)

ヘルニア門に糸をかける1

ヘルニア門に糸をかける1

ヘルニア門に糸をかける2

ヘルニア門に糸をかける2

ヘルニア門を閉鎖する

ヘルニア門を閉鎖する

論文報告

  • Saito T, Sano T, et al. Efficacy of celecoxib as preemptive analgesia for patients undergoing laparoscopic inguinal hernia repair: a randomized trial. Surg Today. 2021 Jul;51(7):1118-1125.

ロボット支援手術

当センターでは、胃癌や直腸癌などで一般的になりつつあるロボット支援手術を積極的に行っています(自費診療、手術写真は以下)。治療は、内視鏡外科学会技術認定をヘルニア領域で取得し、日常ロボット支援手術を実際に執刀している専門家(ロボット専門医・プロクター)がおこなっています。なお、当センターは、本邦でも、早くから開始した施設の一つで、学会発表や日本初の英語論文(下記)で治療成績や手術方法を報告し注目され、多数の他院の医師が勉強に来られています。

腹膜切開(高位)

腹膜切開(高位)

ヘルニア嚢処理

ヘルニア嚢処理

メッシュ留置・腹膜閉鎖

メッシュ留置・腹膜閉鎖

論文報告

  • Saito T, Sano T, et al. Preliminary results of robotic inguinal hernia repair following its introduction in a single-center trial. Ann Gastroenterol Surg. 2020 Jun 4;4(4):441-447.
  • Saito T, Sano T, et al. Current status and future perspectives of robotic inguinal hernia repair. Surg today. 2021 DOI 10.1007/s00595-021-02413-3
  • Saito T, Sano T, et al. How to establish the bipolar forceps dissection method in robotic inguinal hernia repair. Ann Gastroenterol Surg. 2021 DOI 10.1002 / ags3.12535

食道裂孔ヘルニア:逆流性食道炎(GERD)の内視鏡検査・治療


食道裂孔ヘルニアは、逆流性食道炎(GERD:胃食道逆流症)の大きな原因です。
元来、腹腔内にある胃が食道裂孔という横隔膜の穴を通って胸に脱出する形態的な病気です。ここ最近は、高齢者や肥満人口の増加とともに、食道裂孔ヘルニアを持つ人が増加しています。その一方で、食道裂孔ヘルニアは良性の疾患のため、診断されても治療の対象とならず、不快なさまざまな症状(喉の違和感や慢性の咳、げっぷや苦い液が口まで上がってくるなど)を持ったまま生活されている患者さんが沢山おられます。当センターでは、内視鏡などによる適切な診断を行い、必要であれば腹腔鏡手術をおこなっています(今後、内視鏡治療も導入の予定もあります)。

キーワード

ヘルニア、鼠径、腹壁、嵌頓、食道裂孔、逆流性食道炎、GERD、小児、肥満

連絡先

TEL
外線 : 0561-62-3311(代表)
内線 : 36500