泌尿器科

現在の高齢化社会により,泌尿器科の重要性が増してきています。我々はそれに伴った排尿障害などの一般泌尿器疾患をはじめ,各種泌尿器癌や結石治療に対して力を入れて取り組んでいます。また,内視鏡手術(ロボット支援内視鏡手術,腹腔鏡手術,レーザー治療)による低侵襲治療を積極的に取り入れ,患者さんのQOL(生活の質)の保持に努めています。

診療部門からのごあいさつ

部長
佐々直人

愛知医科大学病院泌尿器科は、後腹膜(多くは尿の生成からは排出までに関わる)臓器(副腎、腎臓、尿管、膀胱、前立腺、尿道)および男性の生殖器(陰茎、精巣)を担当する診療科です。泌尿器科は、男性の患者さんが多いイメージですが、排尿に関わる悩みは、女性も同じです。実は、女性も排尿(おしっこをためること、すること)の悩みが多くて困っています。ある調査によると40歳以上の男女のうち、過活動膀胱(尿意切迫感や夜間頻尿、尿失禁)でお困りの方が7人に1人いるとされています。泌尿器科の“がん”、尿路結石(腎、尿管結石)や前立腺肥大症、夜間頻尿症、尿路感染症、女性の泌尿器科として尿失禁や過活動膀胱、骨盤臓器脱(膀胱脱、子宮脱)の治療を行っています。
超高齢化社会を迎え、泌尿器科が関わるべき患者さんが増加しています。年を重ねると、人は病気に、排尿に、がんに、悩まされます。泌尿器科悪性腫瘍“がん”の患者さんは、年々増加し、患者さん個々のがん細胞ひとつひとつに合わせて、緻密な診断、適切な治療計画から適切な治療(ロボット支援手術、抗がん薬の使用)を、診療科一体となって、当院へ受診されるすべての患者さんに提供します。さらに、一部の患者さんには、臓器を温存して、がんを治す、治療方法を最新の機器を導入し実践します。
私たちは、地域の皆様、すべての患者さん、そして紹介いただくかかりつけ医の皆様からお互いを信頼、尊重しあえる泌尿器科を目指します。さらに、将来、社会に貢献できる取り組み、医療技術の開発(創造性)を目指します。
年齢を重ねますと必ず病気になり、悩みます。その病気との付き合い方、そしてその解決方法をご相談にお越しください。

主な対象疾患

泌尿器科対象臓器の周囲解剖図

泌尿器科対象臓器の周囲解剖図

  • 悪性腫瘍、がん(開腹手術/ロボット手術、免疫療法、放射線治療)
    腎臓がん、腎盂じんうがん、尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、精巣がん、陰茎いんけいがん、後腹膜軟部肉腫こうふくまくなんぶにくしゅ脂肪肉腫しぼうにくしゅ平滑筋肉腫へいかつきんにくしゅなど)
  • ロボット手術
    がん:腎摘除術じんてきじょじゅつ腎部分切除術じんぶぶんせつじょじゅつ腎尿管全摘除術じんにょうかんぜんてきじょじゅつ、前立腺全摘除術、膀胱全摘除術
    良性疾患:水腎症すいじんしょうに対する腎盂形成術じんうけいせいじゅつ骨盤臓器脱こつばんぞうきだつに対する仙骨膣固定術せんこつちつこていじゅつ
  • 尿路結石(内視鏡手術、体外衝撃波結石破砕術たいがいしょうげきはけっせきはさいじゅつ、薬物治療)
    腎臓結石、サンゴ状結石、尿管結石、膀胱結石
  • 排尿障害(内視鏡手術、薬物治療;尿意切迫感、夜間頻尿,排尿困難,排尿時痛,尿失禁,夜尿症など)
    男性:前立腺肥大症、過活動膀胱、神経因性膀胱しんけいいんせいぼうこう(ボトックス治療)、夜間多尿症、ハンナ型間質性膀胱炎かんしつせいぼうこうえん(膀胱内DMSO注入療法)
    女性:骨盤臓器脱こつばんぞうきだつ膀胱瘤ぼうこうりゅう子宮脱しきゅうだつ)、過活動膀胱、腹圧性尿失禁ふくあつせいにょうしっきん(せき、くしゃみでの尿漏れ)、神経因性膀胱しんけいいんせいぼうこう(ボトックス治療)、ハンナ型間質性膀胱炎かんしつせいぼうこうえん(膀胱内DMSO注入療法)
  • 尿路感染症
    腎盂腎炎じんうじんえん膀胱炎ぼうこうえん前立腺炎ぜんりつせんえんなどの尿の通り道の細菌感染症
  • 外傷、緊急性疾患
    外傷性腎損傷がいしょうせいじんそんしょう、腎腫瘍の破裂
  • 一般泌尿器科疾患

高度な専門医療

高度な医療

ロボット手術

当院では,2012年6月から前立腺癌に対して内視鏡手術支援ロボット「ダ・ヴィンチS」での手術を開始しました。2016年内視鏡手術支援ロボット「ダ・ヴィンチXi」へ機器更新、2022年より、内視鏡手術支援ロボット「ダ・ヴィンチXi」2台体制となりました。これにより、がん患者さんへの手術の待機期間の短縮を図っています。

ダ・ヴィンチはロボット部と操作部,助手用のモニターで構成され,ロボット部には先端に鉗子やメスなどを取り付ける3本のアームと1本のカメラが装着されています。術者はケーブルでつながったコンソール(操作台)に座り,中に映し出される3D画像を見ながらアームを操り,患部の切除や縫合をします。
このダ・ヴィンチ手術のメリットは以下の通りです。

患者さんのがんへの安全かつ確実な手術が行えます。
通常の開腹手術と比較して傷口が小さく,低侵襲です。
3次元(立体)画像、拡大視野で手術が行えます。
従来の腹腔鏡の2D画像(テレビと同じ)ではなく,術者は鮮明かつ奥行きがある3D画像(開腹術と変わらない)を見ながら手術を行えます。さらにデジタルズーム機能により画像を拡大することができ,今までは肉眼では見えなかった臓器と臓器の間の膜の構造を認識しながら手術を行えます。精緻な手術が可能となり、がんを制御しながら、可能な限りの機能温存が可能です。
人間の手首以上の可動域がある。
精緻な手術ができる理由は,ダ・ヴィンチの腕が手首を持っていることです。今までの腹腔鏡手術は,手首がありませんでした。ダ・ヴィンチが手首を持つことによって,より複雑な動きを可能にし,従来の腹空鏡手術ではできなかった手術操作が狭い空間でも可能となりました。細かい手術、縫う操作をスムーズにかつ安全かつ確実に行うことができます。
手ぶれが全くない。
ムーブメント効果と言って,術者が実際に動かすスピードよりゆっくりとした大きな操作に変換できるため,細かな操作が可能となります。手ぶれや誤作動を防ぐ装置もあり,微細器官の細かい手術、縫う操作などの作業精度が格段にアップしています。
デュアルコンソールを導入
1台のダ・ヴィンチ を2名の術者で同時に操れるデュアルコンソールを導入しました。患者さんの安全に配慮しながら、全く同じ3D映像を共有し、非常にクリアな音声と共にバーチャルポインターを使い細やかな手術を受けることが出来ます。術者のスキルアップが安全に可能になりました。

これらの恩恵はそのまま患者さんへ還元されます。ダ・ヴィンチシステムを使用した手術は,現在,日本では標準的治療となりました。ロボット手術が可能な手術の適応は年々増加しています。すでに当院でも2012年よりロボット手術を開始し、患者さんにより一層高いレベルの医療を提供することが可能になったと考えています。導入後,我々の手術チームでは,術中の出血も抑えられ,術後の創部治癒や尿禁制に関しても良好な結果が得られております。今後も確実なロボット支援手術に取り組んでまいります。(当院で治療が可能な保険承認されたロボット手術は下記の通りです)

  • ロボット支援前立腺全摘除術ぜんりつせんぜんてきじょじゅつ:前立腺がん
  • ロボット支援膀胱全摘除術ぼうこうぜんてきじょじゅつ体腔内尿路再建回腸導管たいこうないにょうろさいけんかいちょうどうかん新膀胱造設しんぼうこうぞうせつ):膀胱がん
  • ロボット支援腎部分切除術じんぶぶんせつじょじゅつ:70㎜以下の腎がん(詳細後述)
  • ロボット支援根治的腎摘除術こんちてきじんてきじょじゅつ:70mm以上の腎がんなど
  • ロボット支援仙骨膣固定術せんこつちつこていじゅつ骨盤臓器脱こつばんそうきだつ膀胱瘤ぼうこうりゅう子宮脱しきゅうだつ直腸瘤ちょくちょうりゅう)(詳細後述)
  • ロボット支援腎盂形成術じんうけいせいじゅつ腎盂尿管移行部狭窄症じんうにょうかんいこうぶきょうさくしょうに伴う水腎症

ロボット支援腎部分切除術

高齢化が進むなか,慢性腎臓病まんせいじんぞうびょう(Chronic Kidney Disease:CKD)という概念に注目が集まっています。これは腎障害を示す所見や腎機能低下が慢性的に続く状態で,放置した場合,腎不全となって人工透析じんこうとうせき腎移植じんいしょくが必要になることもあります。現在,日本には約1,330万人(20歳以上の成人の8人に1人*一般社団法人 日本腎臓学会 編 (2012) CKD診療ガイド2012/東京医学社より)と多数のCKD患者さんがいると言われています。さらにCKDは,人工透析に至らなくても,心臓病しんぞうびょう脳卒中のうそっちゅうなどの心血管疾患しんけっかんしっかんにもなりやすいことが明らかになり,自覚症状のないうちに診断し適切な治療を行うことが大切です。
近年,超音波ちょうおんぱエコー検査やCT検査などの画像診断の普及に伴い,健康診断や他の病気の検査中に,小さな腎腫瘍じんしゅよう(直径4㎝以下)が偶然に見つかる患者さんが増加しています。小さな腎がんが疑われる患者さんの治療を治す方法は、腎臓の片方すべて、もしくは一部分を摘出する手術が第一選択です。手術後に腎臓がんが治っても、腎臓の機能の低下が起こる危険性があります。すでにCKDの患者さん,若い年齢の方、将来に腎臓の機能を悪くする高血圧や糖尿病を抱える方、メタボリックシンドロームの患者さんの小さな腎がん治療に際しては、手術後の腎機能の温存にも注意する必要性があります。我々が行っているロボット支援腎部分切除術は,手術後の腎機能じんきのう温存おんぞんに有利な手術方法です。ただし,小さな腎腫瘍の全てに腎部分切除が行えるものではありません。腫瘍の位置や、腎臓がんの根治性を損なう危険性があるがんの悪性度あくせいど浸潤度しんじゅんど脂肪浸潤しぼうしんじゅんがあるとステージが3となり、部分切除ぶぶんせつじょには適しません)も重要な条件となります。

骨盤臓器脱の治療

女性の骨盤底こつばんていには、尿道にょうどう肛門こうもんに加えてちつという出口があります。出産や加齢かれいで骨盤を支えている支持組織しじそしきが緩むと、子宮しきゅう膣断端ちつだんたん子宮摘出後しきゅうてきしゅつご場合ばあい)、膀胱ぼうこう、直腸が膣から出てくることがあり、これらの病気を総称して「骨盤臓器脱こつばんぞうきだつ」と呼びます。

正常な位置

正常な位置

膣より飛び出した骨盤臓器(子宮)

膣より飛び出した骨盤臓器(子宮)

骨盤臓器脱こつばんぞうきだつ治療法ちりょうほう
軽症の場合、骨盤底体操こつばんていたいそう(肛門をしめる運動)やリングペッサリー(膣内に入れる専用の器具)などにより治療されます。
中等度以上の場合、手術治療が選択されます。骨盤臓器脱の手術は、大きく分けると、①ご自身の体の組織を用いて治療するNative Tissue Repair (NTR)と②メッシュという網目状の医療用布地を用いる手術があります。当院では、膣閉鎖術や腟壁形成術といったNTRや、経腟メッシュ(以下TVM)手術や(腹腔鏡下/ロボット支援)仙骨腟固定術といったメッシュを用いた手術など様々な治療を行っています。これらの中から患者様の病状に応じて最善の手術方法を選択しています。当院で主に行っている手術方法について以下に述べます。
TVM手術は、図のように腟の壁を切開し、膀胱と腟の間にメッシュを挿入し、しっかりした靭帯に固定する手術です。手術時間が短く、身体の負担も少ない利点があります。再発率も低い有効な方法ですが、性交渉の習慣がある方や重度の子宮脱がある方などにはお勧めできない方法です。

腹腔鏡下仙骨膣固定術ふくくうきょうかせんこつちつこていじゅつは、下の図のように膣~子宮の壁にメッシュを固定し、上に吊り上げることにより骨盤臓器の位置を矯正します。全身麻酔が必要であるものの、膀胱瘤や子宮脱、直腸瘤などいずれの病気にも対応でき、成功率の高い方法です。

またロボット支援仙骨腟固定術しえんせんこつちつこていじゅつも当院では行っています。前述の腹腔鏡下仙骨膣固定術と同じ手術内容を、最新の内視鏡手術支援ロボット「ダ・ヴィンチXi」を用いて行う方法です。ダ・ヴィンチは、①鮮明な3D画像、②拡大した画像、③人間の手首以上の可動域、など様々な特徴を持っています。したがって、繊細かつスムーズ、安全かつ確実な手術をすることができます。
優れた特徴を持つダ・ヴィンチを用いて、図のような小さな傷で手術ができますので、術後の痛みも少なく、数日で退院できる非常に満足度の高い手術です。症状でお困りの方は、お気軽に泌尿器科にご相談ください。

腹圧性尿失禁の治療

腹圧性尿失禁とは、出産や加齢で女性の骨盤底を支える支持組織が緩むことで生じる、尿が漏れる病気です。おなかに力が入ったとき(咳やくしゃみなど)に、自分の意思にかかわらず尿が漏れてしまい生活に支障をきたす状態です。多くの女性が悩んでいる病気のひとつです。
軽症であれば薬物治療や骨盤底体操こつばんていたいそうが有効です。中等症以上の場合は、膀胱の頸部をテープで吊り上げ、尿失禁を治療するTVT(Tension-free vaginal tape)手術が選択されます。経腟的(腟の中からの手術です)に行う非常に体の負担の少ない手術で、90%以上の方に腹圧性尿失禁の改善が期待できます。症状でお困りの方は、泌尿器科にお気軽にご相談ください。

がんの先進的医療、がんゲノム医療とバイオバンクへの取り組み

愛知医科大学病院泌尿器科は、がん治療をより先進的、確実なものにするために、以下の取り組みをしています。
当院での手術により摘出されたがんを含む組織の一部を患者さんへ、そして未来の患者さんへ活かすために、同意をいただけた患者さんに以下の取り組みを行っております。

泌尿器科がん病理専門医、放射線診断医、治療医を交えた摘出された臓器、がんへの議論(当院で手術を受けられたすべての患者さんが対象です)
摘出直後の、-80℃環境下での、がん細胞の凍結保存(バイオバンク:同意を得られた患者さんのみが対象です)
治療方針、選択に迷う希少な患者さんに対する腫瘍内科医を交えた多職種での会議(キャンサーボードの開催により多くの診療科で議論をします)
がんゲノム医療の推進(がんゲノム医療地域連携病院)

がん治療は、日々、複雑化、高度化、多様化しております。知の多様性、多くの意見を吸収し、議論し適切な治療が行える体制システムを構築しています。

前立腺レーザー蒸散術について

前立腺肥大症とは
前立腺肥大症は、年齢とともに徐々に肥大した前立腺によって尿道が狭く圧迫されることで、排尿困難感、排尿に時間がかかる、頻尿などの症状を認めます。場合によっては自力では排尿ができずに尿道から膀胱へ管(カテーテル)を挿入する必要が出てくる場合もあります。前立腺肥大による排尿障害に対しては一般的に薬物療法が第一選択とされています。薬によって肥大した前立腺や尿道の筋肉を緩めて尿が出やすくすることにより、自覚症状の改善を期待するものです。多くの方が薬物療法によって症状は改善しますが、十分に改善しない場合、一度は改善したものの徐々に悪化する場合、薬の長期服用を避けたい場合や自排尿ができないなど症状が重症な場合には、肥大した部分を切除する手術が行われます。
前立腺肥大症
前立腺肥大症に対する外科的治療
前立腺肥大によって圧排された尿道を拡げるために、従来から低侵襲手術として、水(灌流液)で視野を確保しながら尿道から内視鏡を入れ前立腺を高周波メスで切除する手術(TUR-P)が広く行われてきました。この手術は高い治療効果があるものの、手術中の出血量が比較的多いこと、術後に尿道カテーテルを留置する期間が長いこと、また灌流液の吸収により水中毒(低ナトリウム血症)を起こすリスクがあるなど課題がありました。また、出血しやすい手術の特性から、脳血管や循環器の疾患で抗凝固薬を服用している高齢者には手術を行うことが難しいとされてきました。
前立腺肥大症に対する従来法の課題に対応した最新の治療法として、2023年3月にハイブリッドツリウムレーザー(HTL)を導入しました。従来の光選択的前立腺レーザー蒸散術(PVP)よりも組織への侵襲がさらに軽減され、大きな前立腺肥大に対して、蒸散する方法だけでなく蒸散核出術も可能になります。また、低侵襲な経尿道的前立腺吊り上げ術(ウロリフト)も導入し、ご高齢の方でも安心して治療が受けられます。前立腺肥大症の症状でお困りの方で、興味がございましたら当院泌尿器科にお気軽にお問い合わせください。
HTL

尿路再建術

私たちは、がんなどの悪い病巣を摘出する手術だけでなく、尿の通り道を作り直す「尿路再建手術にょうろさいけんしゅじゅつ」を積極的に行っています。この尿路再建手術の対象となる病気には、尿道狭窄にょうどうきょうさく(尿道が狭くなり、尿を出すことに困る)や尿管狭窄にょうかんきょうさく(尿管が狭いため尿管ステントを必要とする)、膀胱膣瘻ぼうこうちつろう(常に尿が漏れてしまう)などが含まれます。これらの状態は、生命に、直接関わることは少ないです。しかし、生活の質(Quality of Life)に大きく影響します。
愛知医科大学病院泌尿器科では、『解決のための治療が受けられず諦めてしまっている患者さん』に、できる限り元の生活に戻っていただけるよう、診察、治療をしております。これらの病気、状態でお困りの患者さんは、是非、私たちに、一度ご相談ください。

尿道狭窄にょうどうきょうさく
尿道には、膀胱から尿が出るための通り道としての役割があります。尿道狭窄は、外傷がいしょうや手術、感染症などの原因により尿道が狭くなり、尿が出しにくくなる状態です。これまでは、内視鏡的ないしきょうてきな切開手術や拡張ブジ-(金属の管を通して、尿道を広げるための処置、手術)が主に行われてきました。しかし、この方法には、尿道狭窄が再発しやすいという欠点がありました。私たちは、尿道狭窄症の患者さんに、より成功率が高い尿道形成手術にょうどうけいせいしゅじゅつを積極的に行っています。尿道形成手術は、狭くなった部位を除去し、良い状態の尿道と尿道をつなぎ直す(尿道吻合手術にょうどうふんごうしゅじゅつ)、あるいは口の中の粘膜を尿道の粘膜の代わりに用いて尿道を作り直すことにより、尿道のカテーテルの留置を必要とせず、尿が出せるように、そして、出やすくするような排尿はいにょう症状の改善を目指しています。
尿管狭窄にょうかんきょうさく
尿管は、腎臓じんぞうで作られた尿を膀胱ぼうこうまで運ぶ役割があります。尿管狭窄は、過去の手術や放射線、炎症など様々な原因により尿管が狭くなり、尿路感染症にょうろかんせんしょう(尿に細菌が入り高熱がでる)や腎臓じんぞうの機能が低下する原因となります。尿管狭窄は、カテーテルやステントなどの管により治療されることが多いですが、定期的な交換が必要です。また、これらは対症療法(一時的な解決の方法)であり、根本的な治療方法ではありません。尿管狭窄に対する手術には、病変の部位により様々な方法があります。膀胱や小腸を用いて再建を行うこともあります。患者さんの病態に最も適した方法を提案させていただきます。
膀胱膣瘻ぼうこうちつろう
膀胱腟瘻は、骨盤の手術や放射線などが原因となり、膀胱ぼうこうちつが穴で繋がってしまう状態です。常に膀胱(ぼうこう)から膣(ちつ)に尿が流れることにより、尿失禁(尿漏れ)が生じるため、おむつやパッドが常に必要となります。尿失禁は、生活の質が大きく損なわれる状態であり、外出、旅行に苦労する患者さん、尿漏れを減らすために水分をとることを控える患者さんもいます。瘻孔ろうこう(交通する穴)の位置により、腟のなかを切開して治す手術やお腹を開けて治す手術(開腹手術かいふくしゅじゅつ)など、最も適した方法を検査により、決定し、提案させていただきます。

専門外来

排尿障害専門外来

前立腺肥大症や過活動膀胱などの下部尿路機能障害は、生命に直接影響を及ぼすことは少ないですが、生活の質を大きく低下させる疾患です。適切な薬物治療を行っても効果不十分な症例や、病態が分かりにくい症例など、日常診療で時に遭遇します。愛知医科大学泌尿器科では、様々な下部尿路機能障害について高い専門性をもって診療にあたって参りました。このような背景から、下部尿路機能障害でお困りの患者様の生活の質の向上のため、また地域の先生方との連携を今まで以上に推進するため、このたび排尿障害専門外来(毎週火曜日午前)を立ち上げました。近隣の医療機関の先生方の中で該当の患者様がいらっしゃりましたら、是非ご紹介いただければ幸いです。
ご紹介いただく場合は、専用の紹介状・診療情報提供書をご活用ください。

診療・治療実績

診療実績(令和6年度)

外来患者数(1日平均) 94.4人

治療実績(手術)

  2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
経皮的腎・尿管砕石術 (PNL or ECIRS) 2 4 1 4 1 0 6 5
体外衝撃波砕石術 (ESWL) 85 64 44 39 12 5 4 10
経尿道的尿管砕石術 (TUL) 尿管+膀胱 95 73 69 105 102 101 90 95
腎部分切除術 (開腹) 1 0 0 1 0 0 0 0
腎部分切除術 (鏡視下) 1 0 0 0 0 0 0 0
根治的腎摘除術 (開腹) 6 3 0 4 6 11 5 7
根治的腎摘除術 (鏡視下) 7 6 14 10 28 18 20 6
ロボット支援腎部分切除術 10 26 25 16 11 19 33 27
腎尿管全摘膀胱部分切除術 (開腹) 2 0 0 0 1 0 4 1
腎尿管全摘膀胱部分切除術 (鏡視下) 8 16 15 16 16 15 20 6
経尿道的膀胱腫瘍切除術 (TURis-Bt) 107 97 118 115 137 124 132 132
膀胱全摘除術 (開腹) 8 11 0 1 0 0 0 0
ロボット支援膀胱全摘除術 1 0 5 8 9 11 12 16
尿管皮膚瘻造設術 0 0 1 2 3 3 0 2
回腸導管造設術 9 9 3 7 8 8 1 0
新膀胱造設術 0 2 0 0 1 0 0 0
尿失禁手術 (TVT,TOT) 0 0 0 0 0 0 0 6
膀胱脱メッシュ修復 1 0 0 0 0 7 20 10
膣形成術・閉鎖術 0 0 0 0 0 3 3 5
腹腔鏡下仙骨膣固定術 (LSC) 0 0 0 0 3 2 3 5
ロボット支援仙骨膣固定術 (RASC) 0 0 0 0 3 2 3 5
経尿道的前立腺切除術 (TUR-P/TURis-P) 21 0 2 4 1 2 2 4
光選択的前立腺レーザー蒸散術 (PVP) 10 28 28 27 16 17 27 7
ツリウムレーザー前立腺蒸散術/核出術 (ThuVAP/ThuLEP) 0 0 0 0 0 3 0 12
ロボット支援下根治的前立腺全摘術 (RARP) 91 88 82 54 50 58 50 66
ロボット支援腎盂形成術 (RAPP) 0 0 0 0 0 4 6 0
ロボット支援腎摘除術 (RARN) 0 0 0 0 0 0 2 0
人工尿道括約筋留置術 1 2 1 0 0 0 0 0
尿道拡張術 6 2 1 3 5 1 3 0
高位精巣摘出術 9 5 3 13 7 13 6 10
精巣固定術 (精巣捻転に対する) 2 3 5 0 8 7 7 4
停留精巣固定術 0 1 2 4 0 0 0 0
陰嚢水腫根治術 5 10 5 7 4 5 5 3
陰茎環状切開術/背面切開術 2 1 8 5 6 3 4 8
後腹膜腫瘍切除術 3 2 1 0 0 0 1 1
膀胱水圧拡張術 0 0 0 1 4 2 3 2
仙骨刺激装置留置術 0 0 0 0 2 0 0 0
計(その他を手術含めた件数) 498 457 369 455 459 480 525 517

尿路再建手術:生活の質を取り戻すための選択肢

尿路再建手術とは

尿路再建手術は、尿の通り道(尿路)を作り直す手術です。尿路再建手術は、生命に直接関わることは少ないものの、日常生活の質に重大な影響を与える問題に対して行われます。

主な適応疾患

尿道狭窄

尿道が狭くなることで排尿困難を引き起こします。

尿管狭窄

腎臓から膀胱へ尿を運ぶ尿管が狭くなり、腎機能障害や腎盂腎炎の原因となります。

膀胱腟瘻

膀胱と腟の間に穴ができ、常に尿が漏れる状態です。

当院では、これらの問題に対して最適な治療法を提案し、患者さんの生活の質を向上させることを目指しています。

尿道狭窄:原因と症状

尿道狭窄とは

尿道狭窄は、尿道内腔が狭くなり尿の通り道が制限される状態です。この状態が続くと、排尿障害だけでなく、膀胱や腎臓にまで悪影響を及ぼす可能性があります。

主な原因
  • 外傷(交通事故や転倒などによる直接的な損傷)
  • 過去の手術や処置による瘢痕形成
  • 尿道カテーテル留置による長期的な刺激や損傷
  • 尿道感染症
典型的な症状
  • 排尿困難(尿の勢いが弱くなる)
  • 排尿時間の著しい延長
  • 頻尿(短時間で何度もトイレに行く必要がある)
  • 尿路感染症の繰り返し

従来の治療法の課題

内視鏡的切開術や拡張術は、手術の難易度が低く身体への負担が少ないため、従来は安易に選択される傾向がありました。
しかし、これらの処置は再発率が高く、繰り返し治療が必要になるケースが多いという問題があります。

尿道形成術

尿道形成術は、尿道狭窄を根本的に治療するための手術です。狭窄の部位や程度によって、適切な術式を選択します。

尿道形成術(端々吻合)

狭くなった部位を除去し、健康な尿道組織同士をつなぎ直す手術です。比較的短い狭窄に適しています。

代用組織を利用した尿道形成術

長い狭窄の場合、口の中の粘膜や陰茎の包皮を採取して尿道を再建します。
狭窄部位や程度によっては二回に分けて手術を行う場合もあります。

難易度の高い複雑化した狭窄への対応

尿道形成術の難易度は、患者さんによって様々です。特に難易度が高いと判断される場合、この領域の専門家である防衛医科大学校・堀口明男先生をお招きして、一緒に手術を行っています。

複雑化した狭窄の場合、手術の成功率が低くなったり、合併症の増加を招くこともあります。
診察後、患者さんの状態に合わせた最適な治療法を提案いたします。

尿管狭窄

尿管狭窄とは

尿管狭窄は、腎臓から膀胱へ尿を運ぶ尿管が狭くなる病態です。
尿の流れが妨げられることより、腎機能障害や腎盂腎炎を生じる可能性があります。

症状と合併症

  • 側腹部の痛みや違和感
  • 腎機能の低下
  • 繰り返す尿路感染症と発熱
  • 高血圧(腎機能低下による)

主な原因

  • 骨盤内手術(婦人科・大腸の手術など)による損傷
  • 放射線治療の副作用
  • 尿路結石や炎症による瘢痕形成
  • 先天的な異常

従来の対症療法の問題点

尿管ステントの定期的な交換(通常3〜6ヶ月ごと)は外来で短時間で行えることから、従来よく行われてきました。しかしながら、尿管ステント管理は以下のような問題があります:

  • 交換のたびの痛みと羞恥心による精神的苦痛
  • ステント関連の症状(頻尿、排尿時痛、血尿など)
  • 長期的な腎機能の悪化リスク
  • 繰り返す腎盂腎炎のリスク

尿管再建手術

適切な手術法の選択

尿管尿管吻合術

狭窄部分を切除し、健康な尿管同士をつなぎ合わせる手術です。比較的短い範囲の狭窄に適しています。

尿管膀胱新吻合術

尿管の下部に狭窄がある場合、尿管と膀胱を再吻合します。

代用組織を用いた尿管再建

長い距離の狭窄がある場合、小腸や虫垂、口腔粘膜などを利用して尿管を再建します。

術後の回復と期待できる効果

尿管再建手術を受けることで、尿管ステントを必要としない生活に戻れる可能性があります。一方、悪性腫瘍の再発による狭窄や、狭窄の距離や部位によっては、手術の成功率が低くなったり、合併症が生じることもあります。
当院では診察後、患者さん一人ひとりの状態に合わせた最適な治療法を提案いたします。

膀胱腟瘻

膀胱腟瘻(ぼうこうちつろう)とは

膀胱腟瘻は、膀胱と腟の間に異常な穴(瘻孔)ができる病態です。この状態では、膀胱に溜まった尿が常に腟から漏れ出てしまうため、尿失禁パッドやおむつが常時必要となります。

主な原因

  • 婦人科手術の合併症・後遺症
  • 骨盤内への放射線治療による合併症・後遺症
  • 分娩時の損傷(日本では稀です。開発途上国で多い)

生活への影響

  • 常に尿が漏れるため、外出や社会活動が著しく制限される
  • 尿漏れの量を減らすために水分摂取を控えがちになり、脱水や腎機能障害のリスクが高まる
  • 尿の臭いによる精神的苦痛や社会的孤立
  • 皮膚炎や尿路感染症の繰り返し

膀胱腟瘻:手術方法

膀胱腟瘻の根治的治療は主に手術によって行われます。瘻孔の場所、大きさ、原因、患者様の全身状態などを考慮し、最適な術式が選択されます。

経腟的修復術

腟側から瘻孔を閉鎖する手術です。

  • メリット:身体への負担が少なく、回復が早い。
  • デメリット:瘻孔の位置(高い位置や深い位置)や大きさによっては手術が困難。複雑なケースや再発例には不向き。

経腹的修復術

お腹側から瘻孔を修復する手術です。

  • メリット:高い位置や大きな瘻孔、複雑なケースにも対応可能。腸管や大網などを介在させることで再発率を低減できる。
  • デメリット:経腟手術に比べ身体への負担が大きく、回復に時間がかかる。

希望を取り戻すための第一歩

当院の強み

専門的な技術と経験

尿路再建手術に精通した医師により、最新の医療技術と設備のもとで治療を行います。

患者さん中心の医療

一人ひとりの状態に合わせた治療計画を立案し、丁寧な説明と同意のもとで治療を進めます。

充実したサポート体制

術前から術後まで、看護師や薬剤師を含む多職種チームが患者さんの回復をサポートします。

ご相談ください

「治療法がないと言われ諦めてしまっている患者さん」にこそ、当院の専門治療をお勧めします。長く症状に悩んでいても、改善の可能性があります。

相談窓口

愛知医科大学医学部 泌尿器科学講座
馬嶋 剛(まじま つよし)
Email: tsuyoshi.m.gurs@gmail.com

キーワード

泌尿器科,ロボット,内視鏡支援,ダビンチ,体外衝撃波結石破砕術,腹腔鏡下部分切除,TURis, 先進医療,低侵襲,機能温存

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外線:0561-62-3311(代表)
内線:35700  24外来(8:30~11:30)

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