頚椎後縦靭帯骨化症

頚椎後縦靭帯骨化症

1)疾患概念
後縦靭帯とは脊椎(椎体)の後ろ側を縦に走り、上下の椎体をつないでいるバンドのような組織です。これにより各々の椎体が外れないようになっています。この靭帯が厚みを増して骨のように硬くなり、増大していく病気が後縦靭帯骨化症です。これは、日本人成人の1.6%にみられ、そのうちの13%に神経症状を認めると言われます。1960年に日本で初めて報告された疾患で、黄色人種に多いとされます。厚生省の特定疾患に認定され研究が進められていますが、原因については未だにはっきりわかっていません。遺伝的要因が最も関与しているといわれ、その他食生活なども原因に挙げられています。骨化した後縦靭帯により、脊柱管が狭窄し、脊髄神経を圧迫して症状が出現します。転倒などの軽い外傷により、脊髄損傷をきたして発症する例が最近増えています。


上図は、実際の症例です。単純レントゲン写真でも後縦靭帯骨化が見えています。CTでは明瞭に骨化靭帯がみえています。中央の2枚は矢状断(横向き)で右の2枚は水平断です。実際の脊柱管の径は黄矢印と白矢印を足した幅ですので、70%を骨化靭帯が占めていることになります。


上図は、同一症例のMRI写真です。脊髄が高度に圧迫され、脊髄内に傷ができてしまっています。(黄矢印の部分で、脊髄の中にわずかに白く見えているのが傷です。)

3)症状
脊髄自体を圧迫することによる症状と、神経根を圧迫することによる症状のどちらも出現します。すなわち、手足のしびれ・痛みや、上下肢の脱力、歩行障害、排尿・排便障害などです。

4)診断
頚椎MRIと頚椎CT、単純レントゲン写真で診断できます。

5)治療
神経症状が出現した場合、安静、内服薬、頚椎カラーなどでしばらく様子を見ます。しかし、脊髄が圧迫されることによって出現した症状は、これらの治療では改善する可能性は低く、手術治療を行う必要があります。一度神経症状が出現してきたら、急速に症状悪化を示すことが比較的多く、この場合には、早期に手術をした方がよいと考えます。

6)手術
脊椎脊髄の専門施設でも、後方から手術を行うことが大半です。後方から脊柱管を拡大し、脊髄の圧迫を解除する方法です。この場合、脊髄の前方に存在する後縦靭帯骨化病巣に対しては手をつけません。しかし、骨化した後縦靭帯は手術後も大きくなりますので、再度神経症状が出現してくる可能性があります。
そこで、後縦靭帯がかなり大きい場合には、前方から直接骨化靭帯を摘出した方が、手術の効果が長く続きます。しかし、このような場合は脊髄の圧迫も非常に強いため、わずかな圧迫力などで運動麻痺や感覚障害などを生じる可能性があります。骨化靭帯を摘出するにはかなり高度な技術が要求されます。
また、頚椎が前方に曲がってしまっている症例(頚椎後彎)では、後方から脊柱管を拡大しても脊髄の圧迫はとれません。
私(脊椎脊髄センター部長)はこれまで、固定をしない椎体(椎間板も含む)還納式の前方摘出術(椎体形成的骨化靭帯摘出術)を数多く行ってきました。狭い間口からの手術になりますので、技術的にはさらに高度な手術になります。これまで、この方法で手術をしており、良好な臨床結果を社会に向けて発信しております。手術後の脊柱形態・脊柱機能などの変化も少ないことが特徴です。最近では、術中のリアルタイムナビゲーションを駆使して、骨化靭帯の取り残しをなくす努力をしています。(間口の狭い手術ゆえ、脊髄の圧迫は解除できても、両端に骨化靭帯の取り残しが出てしまう可能性がありました。)
愛知医科大学では、さらに最新式のO-arm II (下図右端)が導入されますので、引き続き術中のリアルタイムナビゲーションを駆使した高度な手術が可能となります。


リファレンスアームを立てて、O-armを撮影。術中の体位を反映したナビゲーションを利用して手術を行います。


術中の写真です。左下から右下に向かって手術が進行しています。椎体を椎間板ごと切り出し(上段左2枚)て、骨化後縦靭帯をドリルで削ります。(上段右2枚)骨化後縦靭帯を全体に紙のように薄くして取り除きます。(下段左2枚)取り終わると硬膜が膨らんできます。(下段右から2枚)切り出した椎体と椎間板のブロックをもとの場所に戻します。



7)術後経過
後方手術では、手術後最長で約1週間頚椎カラーを装着します。入院期間は約10日間です。前方手術では約1か月間頚椎カラーを装着して頂きます。入院期間は同様に約10日間です。(ともに術後の状況に応じて変わります。)