慢性糸球体腎炎(IgA腎症,膜性腎症,紫斑病性腎炎)

慢性糸球体腎炎((1) IgA腎症,(2) 膜性腎症,(3) 紫斑病性腎炎)

概要

糸球体の慢性的な炎症によって,蛋白尿や血尿が出る疾患を総称して,慢性糸球体腎炎といいます。IgA腎症(下記(1)),膜性腎症(下記(2)),紫斑病性腎炎(下記(3))などの疾患が含まれ,病気の種類により,症状や治療方法が異なります。慢性糸球体腎炎で最も多い原因はIgA腎症です。

(1) IgA腎症

概要

尿を作っている糸球体に炎症が起こる病気は,糸球体腎炎と呼ばれます。「IgA腎症」は,糸球体腎炎の原因の中で,最も頻度の高い疾患であり,子供から大人まで幅広く発症します。はっきりとした原因は特定されていませんが,腎臓の糸球体に免疫グロブリンのIgAという抗体が沈着して炎症が起こり,血尿や蛋白尿が出現すると考えられています。
通常無症状で,学校検尿や会社検診の際に尿検査異常で発見される方が大部分です。一部には上気道炎,扁桃炎や腸炎(腹痛・下痢)の数日後に肉眼的血尿(コーラ色の尿)が出現して発見される方もいます。若い方に多く見られますが,患者層はあらゆる年代に及びます。
一般的に蛋白尿や血尿が軽い症例では,腎機能は安定した状態を維持しますが,血尿や蛋白尿の程度が強い症例では,将来的に腎機能低下をきたしやすいため,しっかりと炎症を抑える治療が必要になります。確定診断のためには,腎臓の組織を一部採取し,顕微鏡で調べる検査(腎生検)を行います。

治療

年齢や腎機能,血尿・蛋白尿の程度に合わせて治療方針を検討しますが,どんな患者さんにおいても,減塩を中心とした食事療法が勧められ,禁煙も重要です。薬物治療としては,高血圧を認める場合にはレニン・アンギオテンシン系阻害薬という降圧剤が用いられます。血尿や尿蛋白が多い場合には,糸球体の炎症を抑えるためにステロイドを用いた治療が行われますが,重篤度や治療反応性に合わせて使用量を調整し,必要に応じて免疫抑制剤も併用します。また,扁桃腺でIgA腎症の発症に関与する異常なIgAが産生されることが示唆されており,その原因を除去するために,扁桃摘出術を行う場合があります。

(2) 膜性腎症

概要&治療

「膜性腎症」は,蛋白尿が多く出る病気(ネフローゼ症候群)の一つです。中年以降の年代で多く発症します。蛋白尿が多く出ると,尿が泡立ったり,体のむくみや高血圧を生じ,血液検査では低アルブミン血症やコレステロール値の上昇がみられます。診断には腎生検が必要で,一部の方は自然と改善することもありますが,治療が必要な方には,免疫抑制治療として,ステロイドやシクロスポリン(ネオーラル®️)などを併用します。また膜性腎症の原因として,膠原病や感染症や癌が見つかることもありますので,それらの検査も追加で行うことがあります。また,膜性腎症の原因となる自己抗体として,抗PLA2R抗体という抗体を測定し,診療に役立てています。

(3) 紫斑病性腎炎

概要

「紫斑病性腎炎」は,下肢に多発する紫斑(赤紫色の点状出血)や腹痛や関節症状を伴って腎臓の炎症が生じる疾患で,免疫グロブリンであるIgAが炎症を起こしている各臓器の小血管に沈着していることが特徴です。小児期によく見られますが,成人発症もあります。腎臓に炎症を生じると,血尿や蛋白尿が出現し,重症な方では急激に腎機能が悪化することもあります。症状に応じて,安静・点滴・免疫抑制治療(主にステロイド)などが必要となります。

治療

慢性糸球体腎炎の治療を開始するには,必要に応じて腎生検での確定診断を行い,また病気の進行状況に応じて,免疫抑制治療を行います。

当院(愛知医科大学病院)の特色

当院では,個々の患者さんに対して腎生検を含めて総合的な評価を行い,どのような方針で治療を行えばよいかを十分に検討いたします。治療は長期にわたる場合がありますので,個々の患者さんに合った治療方針をしっかりとたてていくことが大切になります。当院の患者さん中心の診療体制によって,最善の治療を行うことが可能になると考えております。