ANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎(MPA)
多発血管炎性肉芽腫症(GPA)
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA))

ANCA関連血管炎( (1) 顕微鏡的多発血管炎(MPA),(2) 多発血管炎性肉芽腫症(GPA),(3) 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA))

概要&治療

ANCAとは,抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody: ANCA)という抗体で,MPO-ANCAとPR3-ANCAの2種類があります。全身の諸臓器の小型血管に炎症が生じる疾患群です。顕微鏡的多発血管炎(MPA)(下記(1)),多発血管炎性肉芽腫症(GPA)(下記(2)),好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)(下記(3))の3疾患があります。血管炎という血管の炎症を証明するには,障害臓器の組織を採取し病理組織にて血管炎を見つけることが重要ですが,必ずしも組織がえられない場合も多く,各疾患の特徴的な症候から診断することもあります。治療は寛解導入療法として,強力に血管炎を抑え込んで,寛解維持療法として,なるべく少ない量の免疫抑制剤を継続して,再燃をしないように維持します。

(1) 顕微鏡的多発血管炎(MPA:microscopic polyangiitis)

概要

ANCA関連血管のなかで最も頻度が高い疾患です。高齢者に比較的多く発症します。障害される臓器による症状が出現します。すべての臓器障害が必ず出現するわけではありません。ほとんどがMPO-ANCAが血液検査で検出されます(PR3-ANCAはまれ)。

  • 全身症状
    発熱,倦怠感,体重減少。
  • 腎臓の障害
    急速進行性糸球体腎炎となり,数日~週単位で腎機能が低下します。尿検査で血尿,蛋白尿が出現し,血液検査でクレアチニン値が上昇します。下肢の浮腫が出現します。腎生検が必要になります。
  • 肺の障害
    間質性肺炎では息切れが出ますが,肺胞出血を起こすと血痰,呼吸困難となり重篤な状態になります。胸部X線写真,CTにて確認します。
  • 皮膚の障害
    両下肢に紫斑(点状出血)や潰瘍が出現し,皮膚生検で血管炎を確認します。
  • 関節・筋の障害
    関節痛や筋痛が出現します。
  • 神経の障害(末梢神経障害)
    特に下肢,足先のしびれや動かしにくい,力が入りにくいといった症状が出ます。
  • 消化管の障害
    腸管に潰瘍や出血を起こし,腹痛が出たり,下血することがあります。

治療法

ステロイドを中心に,免疫抑制剤を併用します。初期には高用量のステロイドを必要とすることが多く,臓器障害が重篤の場合は,ステロイドパルス療法や,血漿交換にて血液中からANCAを除去する治療を併用します。免疫抑制剤はシクロホスファミド(エンドキサン®),リツキシマブ(リツキサン®)や,アザチオプリン(イムラン®)などを併用します。特に,リツキシマブの適応を慎重に判断して,併用することで血管炎を抑制します。

(2) 多発血管炎性肉芽腫症(GPA : granulomatosis with polyangiitis)  
  (旧名称:Wegener肉芽腫症)

概要

気道における肉芽腫性の炎症が特徴的で,中耳炎,副鼻腔炎,眼窩の炎症,気管支・肺の下気道の炎症,さらに腎炎を起こします。血液検査ではPR3-ANCAまたはMPO-ANCAが陽性になります。

  • 眼窩の病変
    眼窩とは眼球の裏側のスペースのことです。眼の痛み,眼球突出が出ます。
  • 中耳炎,副鼻腔炎
    難治性の中耳炎によって,耳漏,難聴となります。副鼻腔の炎症も難治性となりやすく,鼻出血,鼻の奥の隔壁が破壊される(鼻中隔穿孔),鼻が凹んで変形する(鞍鼻)といった症状が出現します。
  • 肺病変
    空洞性病変,結節性病変が特徴的で,血痰・喀血,呼吸苦が出ることがあります。CT検査が有用です。気管支鏡検査が必要になることがあります。
  • 腎病変
    顕微鏡的多発血管炎(MPA)と同様に急速進行性糸球体腎炎を起こします。腎生検が必要になります。
  • その他
    全身症状として,発熱,倦怠感,食思不振,体重減少が出やすく,関節痛,紫斑,末梢神経障害,消化管出血が出現することもあります。

治療法

基本的には,顕微鏡的多発血管炎(MPA)と同様の治療法です。
気道病変の二次感染,肺病変への肺炎の合併を予防するためにも,積極的にバクタ®の内服をします。

(3) 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)
  (旧名称:Churg-Strauss症候群,アレルギー性肉芽腫性血管炎)

概要

非常に特徴的な経過をとります。気管支喘息またはアレルギー性鼻炎などのアレルギーを先行症状で発症し,その後に,両下肢や両手のしびれ・麻痺症状が出現します。喘息からEGPA発症までの期間は3年以内が多いとされますが,数カ月から数年,十数年の方もいます。特に難治性の喘息や,最近急に喘息の状態が悪くなるようなケースが多いです。好酸球性の副鼻腔炎,好酸球性肺炎を高率に合併します。血液検査では,好酸球が著明に増加していることが特徴です。MPO-ANCAが陽性になるのは,50%未満と少なく,リウマチ因子の陽性率が高いです。下肢の紫斑を皮膚生検して好酸球浸潤を伴った血管炎を確認することが重要となります。
【腫瘍症状】

  • 気管支喘息あるいはアレルギー性鼻炎(①)
  • 血液検査で,好酸球増加(②)
  • 血管炎による症状:発熱,体重減少,多発単神経炎(下肢のしびれ・疼痛・麻痺),下肢の紫斑,肺症状(咳,痰,息切れ),副鼻腔症状(蓄膿),多発筋痛・筋力低下,消化管出血など(③)

      ※ ①,②が先行し,③が発症します。

治療法

ステロイド治療が基本になります。多発単神経炎で麻痺や神経痛が残存しやすいため,初期治療にはステロイドパルス,シクロホスファミド(エンドキサン®)に加え,早期に大量免疫グロブリン療法(献血ベニロン®)を行います。喘息には吸入薬を使用します。しびれや疼痛が持続する場合には,神経障害性疼痛治療薬(リリカ®)などを補助的に使用します。また,難治例やステロイド減量が困難な例では,抗IL-5抗体の生物学的製剤であるメポリズマブ(ヌーカラ®)を併用します。