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「おもてなし」を脳科学的に解明
2022.06.29
発表者
三木研作(本学看護学部・教授) 竹島康行 木田哲夫 柿木隆介
発表のポイント・概要
おもてなしとは,接客業における日本独自のこころがけのことですが,このおもてなしの経験やトレーニングによる脳活動への影響を検討した研究は未だ行われていませんでした。本学看護学部統合生理学三木教授は,おもてなしに長けた接客業の方々は,接客の際のお客さんの表情を読み取る能力が一般の方々とは異なるのではないかという仮説を立てて,愛知県岡崎市にある生理学研究所在籍時に心理学実験と脳波計測を行い,今回,国際学術誌Scientific Reportsにその研究内容を報告しました。その研究結果から,接客業の方々は,表情を認知する際の脳活動が一般の方々とは異なること,ならびに,経験やトレーニングにより,表情の認知が変化することが示されました。この研究結果は,対人コミュニケーションのトレーニングなどへの応用が期待されます。また,本研究は読売新聞,朝日新聞,共同通信ならびに中日新聞など各新聞紙,NHK,CBCテレビ,東海テレビで紹介されました。
発表内容
今回,蒲郡市の温泉宿で接客業にたずさわる女性21名(おもてなし群)と,今まで接客業にたずさわったことがない女性19名(おもてなし群と年齢を一致させたコントロール群)を対象に,表情を伴う顔を見た際にみられるP100成分とN170成分を,脳波を用いて計測して比較しました。また,心理学実験も脳波計測後に行い,対象となった方々に表情を伴う顔画像を見た際に,好ましいかどうかを最低点1~最高点7で評価してもらいました。今回用いた顔画像は,無表情の顔,笑った顔ならびに怒った顔です。
まず心理学実験の結果ですが,好ましさの評価に関しては,おもてなし群のほうが,コントロール群に比べて有意に低くなりました。特に無表情の顔を見た時に,その評価が有意に低い,すなわち「好ましくない」と判断をしていました(図1)。
次に,脳波の結果として,顔提示後100ミリ秒後にみられる脳波成分であるP100成分をおもてなし群とコントロール群で比較しました。おもてなし群ではコントロール群に対してP100成分が有意に大きくなっていました(図2)。特に無表情な顔を見た際には,右後頭部のP100成分が,また怒った顔を見た時には,左右後頭部のP100成分がおもてなし群で有意に大きくなっていました(図3)。
一方,顔特異的な成分として知られている顔提示後170ミリ秒後にみられる脳波成分であるN170成分に関しては,それぞれの表情を伴う顔を見た際には,おもてなし群とコントロール群の間で有意な差はみられませんでした。
今までの研究で,表情を読み取るための顔から得られる情報の処理過程を反映しているのは顔特異的なN170成分であると思われてきましたが,今回の結果から,おもてなしに長けた方々は,画像提示後100ミリ秒前後という視覚情報処理の早い段階で,表情の情報処理が一般の方々と異なる可能性が示されました。
今回の結果から,トレーニングや経験を重ねて,おもてなしに長けるようになった接客業にたずさわる方々は,表情の情報処理が一般の方々とは異なることが示されました。
本研究は蒲郡市ならびに蒲郡市観光協会の協力を受けて行われました。また,本研究は内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACT),文部科学省科学研究費補助金,日本赤十字学園,大幸財団ならびに愛知健康増進財団の補助を受けて行われました。

【図1】おもてなし群とコントロール群において,無表情の顔,笑った顔,怒った顔に対し好ましさに関して最低点1(好ましくない)~最高点7(好ましい)の点数をつけたもの(平均と標準偏差)。おもてなし群のほうが,点数が有意に低く,特に無表情の顔に対する評価がおもてなし群のほうがコントロール群に比べ有意に低かった(*はp<0.05)。

【図2】おもてなし群とコントロール群において,無表情の顔,笑った顔,怒った顔に対し左右後頭部ですべての対象者でみられたP100成分を総加算平均したもの。おもてなし群がコントロール群に比べ,有意に大きくなっていた。

【図3】P100成分の振幅(最大値)(平均値と標準偏差)をあらわしたもの。無表情の顔に対しては右後頭部で(* pp<0.05),また怒った顔に対しては左右後頭部でおもてなし群のほうがコントロール群に比べ有意に大きくなっていた(** pp<0.01)。
成果の意義
対人コミュニケーションが苦手な方々や対人コミュニケーションに障害のある方々へのトレーニングなどへの応用も期待される研究で,世界で初めておもてなしというものを客観的に解明した研究になりました。
発表雑誌
- 雑誌名
- Scientific Reports
- 論文タイトル
- The ERP and psychophysical changes related to facial emotion perception by expertise in Japanese hospitality, “OMOTENASHI”
- 著者
- Kensaku Miki, Yasuyuki Takeshima, Testuo Kida, Ryusuke Kakigi