腫瘍免疫寄附講座(令和3年度終了)

講座終了のご挨拶

私のライフワークとも言うべき“腫瘍免疫“は,21世紀に入り基礎研究からがん治療の概念を一変させるような臨床研究への変換期でした。この新しいうねりをもう少し現場で見届けたいと思い,前職の定年退職時に本学理事会(三宅養三理事長)のお許しを得て,平成24年(2012年)に「新しい科学的ながん免疫療法の開発研究」を目的として開講させて頂きましたが,10年の節目を迎え閉講致す事になりました。

私は昭和44年に名古屋大学医学部を卒業し,初期研修で数名の白血病の主治医を担当して以来,50数年間“がんの薬物治療”一筋の人生でした。臨床医を始めた当時はがんの“告知は真に死の宣告”でした。以来,がんの化学療法,分子標的療法,免疫療法と治療の変遷とその確かな臨床への手ごたえを多くの若い医師や共同研究者と実感しながら研究生活は活力に溢れ,夢のある毎日でした。

愛知医科大学での10年間では,私達が成人T細胞白血病の治療薬として開発した日本初の抗がん抗体薬(モガムリズマブ)を用いて固形がんを対象とした新規がん免疫療法である「固形がんに対するTreg細胞除去療法」の開発を目的とした臨床治験3本を全国ネットワークで完遂でき,がん免疫療法に一石を投じる成果を得る事ができたことは大きな喜びでした。
学内では学生さんや若い研究者との触れ合いは良い刺激になり,又事務局をはじめ多くの大学関係者には温かい支援を頂き,お陰で充実した研究生活を送ることが出来ました事を厚く御礼申し上げます。
平成29年には紫綬褒章の栄に浴し,この度講座を閉じるに当たり愛知医科大学から名誉教授の称号を賜りました。これまでの共同研究者,並びに関係者に心から感謝致します。

一つだけ心残りな事は,長引くコロナ禍のためにお世話になった皆様に直接お会いして御礼のご挨拶ができなかった事です。ご容赦ください。
最後になりましたが,愛知医科大学の今後の益々の発展を祈念しております。

教育方針

教室10年の歩み

本講座は「新しい科学的ながん免疫療法の開発研究」を目的として平成24年度に開設し,研究,教育,社会活動を継続して令和3年度に10年目を迎え初期の目的を達成できたので,令和4年3月31日をもって閉講と致します。

教室では現在脚光を浴びている固形がんに対するがん免疫療法に関して,制御性T(Treg)細胞除去療法の開発研究を継続してきました。我々は2012年にCCR4分子を成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)の治療標的分子とした抗CCR4抗体薬の上市に成功しました。CCR4抗体薬の開発研究中に,このケモカインレセプターCCR4分子が健常人のリンパ球では制御性T(Treg)細胞に発現していることを見出しました。試験管内やマウスモデルで正常Treg 細胞の除去により,がん免疫の増強効果を観察したので,この抗CCR4抗体のがん免疫治療への応用研究を開始しました。医師主導治験のプロトコールは講座を開設した2012年に厚労省の「革新的がん医療実用化研究事業課題」として採択され,全国8施設(愛知医大,国がん東,慶應大学,東大,名市大,阪大,岡大,川崎医大)の共同研究として発足しました。本プロジェクトは本大学の研究支援課の協力を得て,当教室に治験事務局本部を置き,医師主導治験を強力に推進した結果,治験1a/1b相を完遂し,2018年には治験の安全性と有効性を示す報告書も完成しました。治験Ia相の結果は既に2015年Clin Cancer Res(文献54)に報告しましたが,2021年中にIb相の結果も纏まり臨床編はNagoya J Med Sci(2021,文献10)に,また基礎研究成果はNature Communications (2021, Web公開,文献6)に採択されました。

本治験結果を踏まえ,平成28年度からは抗PD-1応対(ニボルマブ)とモガムリズマブの術前併用療法(がん免疫ネオアジバンド療法)の医師主導治験を立案,AMEDに採択されました(代表者, 大阪大学大・臨床腫瘍免疫学 和田尚教授)。本治験における特徴は,抗がん免疫治療剤を術前に投与することにより,未治療の固形がん患者さんに対して薬剤の投与前後における免疫環境の変化を解析して,がん免疫治療におけるバイオマーカーの探索や,作用機序を詳細に研究する事にあります。当教室では,がん病巣の微小環境(TME)における各種免疫細胞のクロストークの解析をフローサイトメトリー,免疫染色,次世代シークエンサー等により多角的に行いました。特に,治療前後の病巣局所における多重免疫組織染色を研究創出支援センターの鈴木進准教授(当講座准教授兼任)が臨床病理の都築豊徳教授らとの共同研究で興味ある結果を得てきております。また,耳鼻咽喉科の小川徹也特任教授が責任医師(PI)となり,愛知医科大が頭頸部癌(口腔癌)領域の開発研究をする事になり,2019年1月に本学のIRBの審査・承認を受け,12月末に第1例が登録され治療されました。本プロジェクトは2020年中に計画どおり完結し,治験終了報告書も提出いたしました。現在論文化を纏めております。

10年目の節目に当たり,教室が主体となって施行した先進的で特有ながん免疫療法として行った3つ医師主導臨床研究を完遂でき,初期の開講目的を果たせたのも愛知医科大学のご支援のお陰と心より感謝いたしております。

教室主任は2019年より,AMEDの創薬基盤技術開発事業として,「患者層別化マーカー探索事業」の研究代表者として研究の総括を担当させて頂いておりまして,2021年度も大学を始め,多くのがん関連の学会や財団,NPO機構を通して,がん政策からがん研究の在り方のアドバイザーや指導・評価を行ってまいりました。

最後になりましたが,腫瘍免疫寄附講座にこの10年間変わることなく寄せられた愛知医科大学関係者はもとより全国の医療関係者からのご厚情,ご支援に関して心から御礼申し上げます。

活動・研究内容

腫瘍免疫寄附講座は,次世代がん免疫療法の開発を目的とした,基礎的,臨床的研究を行ってまいりました。
具体的には,以下の項目を推進してまいりました。

  1. 免疫学における腫瘍免疫学の位置づけ
  2. 腫瘍免疫応答機序の分子的,機能的解析
  3. 腫瘍特異抗原の機能解析
  4. 腫瘍特異的細胞傷害性T (CTL)細胞の作製及びCTL機能の亢進と増殖法の検討
  5. 制御性T (Treg) 細胞の機能解析と制御法の開発研究
  6. 日本初のネオアジュバント設定がん免疫療法である「固形がん患者に対するMogamulizumab/ Nivolumab術前併用投与の安全性を観察するための第Ⅰ相治験」
  7. がん免疫療法に有効なバイオマーカーの探索研究

スタッフ紹介

氏名 職名
上田 龍三 教授
鈴木 進 准教授(兼務)
奥村 京子 助手

研究テーマ


在籍中の業績(平成24年度以降)

在籍中の主な研究活動(平成24年以降)

在籍中の主な委嘱役員等(平成24年度以降)

在籍中の学会活動(平成24年度以降)

主な受賞

キーワード

腫瘍免疫,CCR4,制御性T細胞,CTL,抗体療法,がん免疫療法,がんワクチン,がん免疫アジュバンド療法