眼科学講座

炎症性眼疾患から眼を守る

眼科学講座 雑喉正泰

p_oph_01 我々のグループでは、ぶどう膜炎をはじめとする炎症性眼疾患の治療について研究をしています。主にベーチェット病をモデルに治療的観点から基礎研究を進めています。以前のデータ(Li et al., 2010)から、「ベーチェット病では、炎症に関しては抗TNF-a 製剤であるinfliximabの体内濃度が高い時期がより安全」との結論を導きました。そのことは白内障手術の症例(Handa et al., 2011)や、抗炎症治療に抵抗性の難治性緑内障手術の症例(Koike et al., 2012)で矛盾しないことが示されました。

 今回の戦略的研究基盤形成支援事業の開始にともない、ベーチェット病の前部ぶどう膜炎をモデルとした基礎研究を始めました。血液房水関門を構成する毛様体無色素上皮細胞では、TNF-a は濃度依存的にマトリックスメタロプロテナーゼの発現を増加させ、この異常な発現増加はinfliximabにより抑制される事が示されました。マトリックスメタロプロテナーゼは、毛様体無色素上皮のタイトジャンクションの主要分子を分解しました。この分解により同細胞の透過性が病的に増加する事をin vitro系で示しました。一連の結果は、TNF-a による前部ぶどう膜炎の発症とinfliximabによる治癒機序をシミュレーションしていると考えます(投稿中)。

 毛様体無色素上皮細胞に存在するFibrillin-Versican-Hyaluronan(FiVerHy)(Ohno-Jinno et al., 2008)は血液房水関門の構成に不可欠と考えます。この構造物に関連して、ヒアルロン酸と薬物のアフィニティーの違いで薬効の差が生じること(Sugita et al., 2013)、さらにヒアルロン酸とコンドロイチン硫酸が流速に影響するなどの研究を進めてきました(投稿中)。FiVerHyは眼圧決定の一因子と考えますが、代表的な緑内障治療薬であるラタノプロストが、マトリックスメタロプロテナーゼの発現を促進し、FiVerHyを分解するという興味深い事実も解りつつあります(投稿準備中)。現在、FiVerHyと眼圧ならびに炎症の関連性につき解析中です。

 臨床研究では、ぶどう膜炎の治療に用いる副腎皮質ホルモン製剤、ベタメサゾン点眼のレスポンダーに関するレトロスペクティブな解析を実施しています。レスポンダーとは、副腎皮質ホルモン製剤が原因で緑内障に至る憂慮すべき事態です。この解析は、既存薬剤のより安全な使用方法を確立するのが目的です。

 共同研究者である梅澤一夫先生よりご提供いただきましたDehydroxymethylepoxyquinomicin(DHMEQ)はNF-κB inhibitorです。上記in vitro系を用いて研究をおこなったところ、抗TNF-a 様の作用が確認されました。現在、infliximabと薬効を比較検討中です。炎症性眼疾患に対して、新規薬剤の導入について研究中です。

 上記のように我々のグループは、基礎ならびに臨床の多面的視点から「炎症性眼疾患から眼を守る」という目標に向き合っています。研究のための研究に終わらず、臨床医として、将来的にこれらの成果が、臨床の場で疾患の治療に役立つことを第一の目的として研究に取り組んでいます。

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主要研究者・雑喉正泰先生は2016年3月に退職しました。