薬理学講座

細胞死制御機構におけるWDR35(Naofen)の役割

薬理学講座 岡田尚志郎

p_pharm_01  Beta-transducin repeatとしても知られているWD 40 repeat は、約40アミノ酸からなる構造上のモチーフで、典型的には、N末端のグリシン-ヒスチジン ジペプチド(GH)およびC末端のトリプトファン-アスパラギン酸ジペプチド(WD) で区切られたさまざまな長さの領域からなる。繰り返しのWD 40 モチーフはWD40ドメインを形成し、タンパク質間相互作用に関与していると考えられている。WD 40 repeatを含有するタンパク質(WDR)は、細胞の成長、増殖、アポトーシスおよび細胞内シグナル伝達などのさまざまな細胞機能に重要な役割を果たしている。最近我々は、WDRの一種であるラットWDR35 (別名naofen )をクローニングし、その機能解析を行ってきた。その過程で、CCl4およびLPSによる肝傷害モデルラットやストレプトゾシンによる糖尿病モデルラットにおけるWDR35の発現増加が、アポトーシスに関連する可能性のあることを報告してきた。

ドウモイ酸(DA)は、一過性健忘をきたすカイニン酸 (KA) 類似の興奮性アミノ酸である。DAは、グルタミン酸受容体の活性化を介して、特に海馬において神経細胞死を引き起こすと推測されている。近年、in vitroの実験系においてDAは活性酸素(ROS)産生を誘発し、p38MAPKの活性化を介してアポトーシスを誘導することが報告されているが、in vivoにおけるROS、p38 MAPKの関与については未だ明らかではない。

そこで本研究では、in vivo投与したDAによる海馬の神経細胞傷害に、グルタミン酸受容体、ROS、p38 MAPKおよびWDR35が関与するか否かを検証するために、以下の実験を行った。DAをラットに腹腔内投与後、ラット全脳におけるDAの同定・定量、海馬における組織学的および生化学的解析を行った。

LC-MS/MSによりドウモイ酸の脳内分布を同定した。その濃度は約20 pmol/g tissueであり、先行研究における脳内濃度と同程度であった。海馬の組織学的解析において、腹腔内に投与したDAは、海馬のCA1領域におけるアポトーシスを含む神経変性所見とWDR35の発現増強を引き起こした。生化学的解析においても、DAは海馬におけるWDR35 のmRNAおよびタンパク質発現を用量および時間依存的に増加させた。グルタミン酸受容体拮抗薬の前投与実験において、NBQX (AMPA/KA受容体拮抗薬)の前投与は、DAによって増加したWDR35のタンパク質発現を有意に減少させたが、MK-801(NMDA受容体拮抗薬)の前投与は有意な変化を認めなかった。さらにNBQX の前投与およびラジカルスカベンジャーであるエダラボンの前投与は、DAによって亢進したp38 MAPKのリン酸化を有意に減少させた。

以上の実験成績から、DAはin vivoでAMPA/KA受容体を活性化し、ROSの産生およびp38 MAPKのリン酸化を亢進させ、WDR35の発現の増加をもたらすことが明らかとなった。

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