消化器内科

非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)における肝線維化および発癌の病態解明と抑制に関する研究

消化器内科 中尾春壽 米田政志

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研究概要

p_gastrom_01_01 p_gastrom_02_01メタボリックシンドロームの肝での表現型である脂肪肝は近年増加の一途をたどり社会問題となっている。なかでも非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は飲酒歴がないにもかかわらず脂肪肝から肝硬変へ進行し、肝発癌をきたしてくる疾患として近年注目されているが、その原因や治療法は確立していない。私たちは1995年頃よりNASHに注目し、これまでにその治療法について研究を行ってきた。肝生検にてNASHと診断された症例に抗酸化剤であるα-tocopherolを12カ月服用させると、肝機能は有意に改善し、肝生検を施行した9例中5例において肝線維化と炎症の改善が確認された(Aliment Pharmacol Ther 15: 1667-72, 2001、Hepatology 39:568-9, 2004)。さらに肝線維化における肝星細胞の中心的な役割に着目し、その肝星細胞の活性化を抑制するアンギオテンシンⅡ受容体阻害剤のNASHに対する効果を検討した。高血圧を合併するNASH8人に対してアンギオテンシンⅡ受容体阻害剤であるlosartan(50 mg/日)を48週間投与したところ、losartan投与後肝生検を施行した7例中5例において肝線維化と炎症の改善が確認された(Hepatology 40:1222-5, 2004)。慢性肝炎なかでもC型肝炎は肝硬変になると年率7%と高率に肝発癌してくることが知られている。NASHにおいても、近年の報告によると肝硬変から年率約2%肝発癌がすることいわれている。肝線維化が増加するにつれて肝発癌が増加してくることから、肝線維化抑制を目的にアンギオテンシンⅡ受容体阻害剤の一つであるtelmisartan (2 mg/kg)をラットNASH発癌モデルに適用し研究を行った。ラットに脂肪性肝炎から肝硬変さらに肝発癌をきたす、コリン欠乏アミノ酸食を48週間摂食させると約半数のラットに肝発癌をきたすが、telmisartan を投与すると前癌病変であるGST-P陽性細胞数が減少し、肝線維化抑制とともに肝発癌抑制することが確認された。アンギオテンシンⅡ受容体阻害剤による肝線維化抑制はNASHにおいて、肝発癌予防に役立つ手がかりを提供するものと考えられる。

 本研究を踏まえて、NASHからの肝線維化および肝発癌メカニズムをさらに解明するため、NASH肝発癌モデルマウスであるSTAMマウスに対して高脂肪 食投与を導入して研究中である。STAMマウスは高脂肪食を摂取すると脂肪肝からNASHを経て肝硬変を発症した後に肝癌を合併するモデルマウスである。 具体的には生後2日目のC58BL/6マウスにストレプトゾトシンを投与し、膵b細胞を破壊し糖尿病を発症させる。生後4週間経過した後、マウスに高脂肪 症の摂食を開始させ、8週、12週、16週と高脂肪食の投与を継続する。それぞれの週齢でマウスを犠死させ肝を取り出し、肝脂肪化、肝炎症、肝線維化およ び肝腫瘍を組織学的に評価するとともに週齢に伴い肝線維化、肝発癌が増悪していく段階でマイクロアレイを行い遺伝子発現のパスウェイ解析を施行して NASH肝発癌過程における遺伝子プロファイリングを探索する予定である。

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 これまで述べたようにアンギオテンシンⅡ受容体阻害剤は肝線維化抑制に有効であるが、高血圧症を合併していないNASH患者には投与し難いという問題がある。肝硬変および肝癌の予防には、すべてのNASH患者に投与可能な肝線維化抑制作用のある薬剤が望ましい。本学分子標的医薬探索寄付講座の梅澤一夫教授が開発されたコノフィリンは熱帯植物由来の薬物であり膵臓および肝臓の線維化を抑制することが梅澤教授らの研究により示されている。NASHにおいても肝線維化を抑制して肝発癌を予防しうるかを検討するために、梅澤教授との共同研究により、STAMマウスを用いてコノフィリン投与群、高脂肪食群、通常食群の肝臓組織を経時的に採取しコノフィリンの肝線維化抑制作用および肝発癌予防効果を解析する研究を開始した。この成果は来年度に報告する予定である。