呼吸器・アレルギー内科

呼吸器・アレルギー内科 山口 悦郎

副腎皮質ステロイドによる抗炎症作用の変曲現象

 ヒト末梢血単核球をin vitroで刺激し、種々の濃度のメチルプレドニゾロン存在下で各種サイトカインを測定し、ステロイドによる抑制効果が一律ではない、言い換えるとある濃度範囲では促進させるが、さらに濃度が上昇すると抑制に変わる個体が存在するとの仮説を検証するために、現在50名の学生ボランティアから試料を収集した。現在様々なメチルプレドニゾロン濃度条件下での、サイトカイン濃度を測定中である。変曲現象が確認されたなら、それとステロイド反応性と関連すると言われている遺伝子多型との関連等を検討する予定である。

非結核性抗酸菌症を含む複合重症感染症患者における、血清抗IFN-γ自己抗体の意義

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 67歳の女性において、2008年から皮膚、肺、気管支、子宮膣部、膀胱壁の非結核性抗酸菌症、小脳トキソプラズマ症、麻疹、陰部ヘルペス、帯状疱疹など多彩な感染症を順次発症した患者を診療する機会を得た。非結核性抗酸菌は結核菌と比較して感染力は弱く、通常の免疫状態で肺以外に病変を形成することはまれである。本例はHIVウイルス感染の徴候はなく、他の免疫異常の存在が推定された。

 解明のきっかけは結核菌抗原に対するリンパ球のIFN-γ産生能をみるIFN-γ放出試験(QFTR)が「判定不可能」との結果を得たことである。それは患者血漿中に抗IFN-γ抗体が存在することを示唆する。そこで血清中の抗IFN-γ自己抗体を自製ELISAで測定したところ、患者血清中には健常者のおよそ1万倍もの高濃度のIgG抗体が検出された(図1)。一方、末梢血CD14 (+)単球のIFN-g受容体g1鎖、g2鎖は正常の発現がみられ、IFN-γ刺激による末梢血単核球のIL-1b、TNF-a、IL-10、IL-8、IL-6産生能は対照者と同様であり、IFN-γ刺激によるリン酸化STAT1の発現も正常であり(図2)、IFN-γ応答は基本的に正常であった。抗CD3抗体+抗CD28抗体刺激、またはPHA、またはLPS、またはIL-12存在下の末梢血単核球のIFN-γ産生能は、やや低い傾向を示した。しかし、IL-12存在下の培養でIL-10やIL-8の産生能は正常であり、IL-12応答は基本的に正常であると判断された。

 以上より本症例ではIFN-γやIL-12に対する応答性は正常であり、抗IFN-γ抗体が複合的感染症の発症に関与したものと考えられた。その他に抗IFN-γ自己抗体を有する類似例を3例発見しており、今後同様な症例の集積による詳細な臨床像の解析が必要と考えている。

研究内容図

図1:各種肺疾患患者血清中抗IFN-γIgG抗体濃度
Control、健常対照者;NTM、非結核性抗酸菌症;Sarcoidosis、サルコイドーシス;APAP、自己免疫性肺胞蛋白症;Patient、発端患者.AU=arbitrary unit、人為単位

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図2:STAT1リン酸化
末梢血単核球を種々の濃度のIFN-γで刺激し、STAT1のリン酸化を、Western blot法で検討した。CNT、健常対照者;Pt、患者

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実験風景

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