ICTリーダーあいさつ

ICTリーダー 三鴨廣繁

(感染制御部長、感染症科教授)

 

はじめにInfection Control Team(ICT)という概念の誕生の歴史について説明させていただきます。歴史的には、1959 年に黄色ブドウ球菌の病院感染と闘うために、イングランドのExeterで初めてInfection Control Sister(ICS)が任命されました。米国では、感染症学でも有名なスタンフォード大学でInfection Control Nurse(ICN)が1963年に任命されています。さらに、Centers for Disease Control(CDC)は、1968 年までに病院感染のサーベイランス、予防、制圧の教育コースを新設しています。このような歴史的経過の中で、「感染症学」とは異なる新しい学問として「感染制御学」という新しい学問分野が誕生しました。「感染症学」が感染症(Infectious Diseases)の「診断」と「治療」を目的とするのに対して、「感染制御学 (Infection Control and Prevention)」とは病院施設内における感染症の発症を「予防」することを目的とするよりプラクティカルな学問領域です。具体的な感染制御の使命とは、医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、事務など多くの職種の職員がそれぞれに得意とする分野を分担し、責任をもって病院内の感染予防と職員の健康管理を行い、患者さんに安心・安全な医療を提供することです。そのような意味で感染制御はコメディカルという線引きがない本当の意味での「チーム医療」であると言うこともできます。このような「チーム医療」は、ICTが最も成功している形態ですが、最近では感染症のみならず多くの医療現場で実施されるようになってきました。しかし、いずれの「チーム医療」も「患者さんの臨床転帰を改善する」ことが最終目標となります。

当院のICT は次のような職種で構成されます。

(1) 医師

(2) 看護師

(3) 薬剤師

(4) 臨床検査技師

(5) 専従事務担当

 

当院のICT の主な任務は以下のような内容となっています。

(1) 年間計画の作成と病院長への報告

(2) 年間計画の実行とアウトカム評価

(3) 年間予算計画の作成と交渉

(4) 毎日の感染症患者に関するコンサルテーションおよび治療支援、Therapeutic Drug Monitoring(TDM)に基づいたラウンド、感染防止技術指導ラウンド

(5) 環境ラウンド・清掃業者ラウンドなどICTが企画した感染対策ラウンド

(6) 必要な対象限定サーベイランスtargeted-focused selective surveillance(関連診療科との協力による)

(7) サーベイランス結果の病院長,感染予防対策委員会,現場への報告およびそれに基づいた対応策の策定

(8) アウトブレイクの防止と発生時の早期特定および制圧

(9) 現場への介入(インターベンション)(教育的介入,設備備品的介入)

(10)      感染対策マニュアルの作成、職業感染防止と針刺し事故などへの対応

(11)      結核、疥癬、各種ウイルス、耐性菌(MRSA, VRE, MDRP, MDRA など)、稀に検出される微生物の交差感染防止

 

前述させていただきましたように、ICT の業務は、診療科横断的なもので、現場における医師および看護師などへの介入も重要な業務であるため人間関係を円滑に維持できる能力が強く求められています。しかも、現場担当者の話をよく聞き、必要に応じて科学的検討を積極的に実施し、その結果に基づいて、その時点で最良な策を理解しやすいように説明および対応策の策定ができるよう努力しています。

残念ですが、我々は、医療関連感染(院内感染)をゼロにすることはできないと考えています。しかし、我々ICTは、「医療関連感染(院内感染)をできる限り少なくすること、そのための努力を惜しまないこと」を日々の目標としています。私たちの活動をホームページでお伝えすることで、感染制御の活動を理解していただければと願っています。

最後に、感染症は、病原体と宿主および環境の相互関係によって引き起こされる複雑な病態です。感染症を正確に診断し適切に治療することは極めて重要です。愛知医科大学病院が医育機関の大学病院であることも念頭に置いて、大学病院としての社会的使命を果たすべく、感染症の臨床検査診断技術の向上、有効な治療法のエビデンスを構築する基礎的および臨床的な研究も行っています。我々は、日本だけではなく国際的に活躍できる感染症臨床医・薬剤師・看護師・臨床検査技師を育てることも目標としていますのでこの点もご理解いただければ幸いです。

 

令和3年4月1日