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乳がんの手術後の乳房再建

  • はじめに

      乳房再建手術は直接的にがん細胞と戦うものではありません。しかし、失われた乳房の形態を修復することは肉体的のみならず精神的にも元の生活に近づけることにつながります。これは乳癌の治療の質を高めるものと考えることができます。当科では乳腺外科との連絡を密にしてそれぞれの患者さんに適した再建方法を考えることで、乳癌治療の一翼を担えるよう努力しています。
     このページでは、乳房再建を考えている方の参考になるよう、当科で行っている手術の情報をまとめてみました。皆様の理解の助けになれば幸いです。

  • 乳房再建が必要なのはどんなとき?

     近年、乳がんの手術は縮小の方向にあり、乳房温存手術が普及してきました。しかし、乳がんの位置や広がりかたによっては乳房をすべて切除する手術が選択されることがあります。乳房を切除すると聞いて真っ先思い浮かぶことは自分の体のかたちが変わってしまうということでしょう。乳房を再建した人にその動機を伺うと一番多い答えは「温泉旅行に行きたいから」というものです。また、「子どもや孫と一緒に風呂に入りたいから」という人もいます。体のかたちを修復することで外見的な違和感をなくし、人に気兼ねせずに行動できるということでしょう。その他に乳房を切除したために、下着がずれてしまう、左右の胸の重さが違う、胸が寒いなど、外見の問題以外の悩みを生じることがあり、これらに対しても再建手術が役に立ちます。また、再建手術をすることで乳癌治療に前向きに取り組めるようになったと言われる方もあります。しかし、これらのことは気にしないという方もあるので、再建を行うかどうかは患者さん本人の自由意志で決めればよいことです。

  • どんな人が再建手術の対象となるのか?

    これから乳癌の手術をする方の場合・・・
     一般的には病気の乳房の全部を切除される方 (乳房切除術) が再建手術の対象となります。腋窩リンパ節廓清はされてもされなくても再建は可能です。乳房温存手術 (部分切除) の予定でも残った乳房の変形が予想される場合は再建を行うことがありますが、切除断端が陽性だった場合や局所再発が起こった場合の対処について理解しておかなければなりません。乳房の切除を一部にするか全部にするか迷っている方の場合、再建の話を聞くことが術式を決める助けになることがあります。乳房温存手術では術後の放射線治療が必要で、そのために約5週間の通院が必要ですが、乳房切除術では一部の例外を除いて放射線治療は不要です。そして乳腺を残さないため、局所再発の確率も低くなります(ただし生命予後には差がないといわれています)。よって乳房切除術プラス再建も乳房温存手術に劣らないメリットを持った術式なのです。再建手術をいつするのか、次の項で述べる「同時再建」と「二次再建」から選ぶことになります。

    すでに乳癌を切除する手術を終了した方の場合・・・
     次の項で述べる「二次再建」に相当します。この場合でも基本的には乳房の全部を切除 (乳房切除術) された方が対象です。乳房温存手術 (部分切除) をうけた方の中にも、温存はできたもののやはり変形が気になるという方があるかもしれません。こうした場合でも再建は可能ですが、どちらかというと手術の難易度は高くなります。いずれにしても、再建手術を計画する上で乳癌の手術や術後治療の内容についての情報が必要になりますので主治医の先生から紹介状を書いてもらった方がよいでしょう。
       また、再建に年齢は関係ありません。60歳以上の方でも再建手術を受けられる方は珍しくありません。

  • いつ再建するのか?

    同時再建と二次再建があります。

    同時再建 (即時再建、一次再建も同じ意味です)
     乳癌を切除する手術に引き続いて乳房のふくらみの再建を行う方法です。利点としては乳房の喪失感をあまり感じないですむこと、手術の回数が少なくてすむことが挙げられます。欠点としては、手術までの短い間に乳癌の治療のことと再建のことを一度に考えて理解しなければならないことがあります。同時再建と言っても、1回の手術ですべてが完了することは少なく、合計で2〜3回程度の手術が必要となることがほとんどです。乳輪・乳頭 (乳首の部分) の再建は、乳房のふくらみの再建が完了したあとに局所麻酔の手術で行うのが一般的です。

    二次再建
     乳癌の手術および化学療法などの補助療法が一段落ついたところで再建を行う方法です。利点は再建手術の内容についてじっくり考える時間をとれることです。欠点としては再建までは乳房を失った状態で暮らさなくてはならないこと、手術の回数が一回多くなることが挙げられます。この方法でも乳輪・乳頭の再建は後日行うのが普通です。二次再建を選択した場合、乳癌の手術と乳房再建の手術は別々の日程になりますから、それぞれの手術を別の病院で受けることも可能です。現状では乳房再建手術を行っている病院は限られていますので自宅の近くにないという場合も多いでしょう。そういった場合、乳癌の手術は地元の病院で受けて、乳房再建は二次再建として別の施設で受けるという方法も考えられます。

  • どんな方法があるのか?

     再建には大きく分けて人工物 (ティシューエキスパンダー、シリコンインプラント) を使う方法と自家組織 (自分の皮膚や皮下脂肪) を移植する方法があります。


    人工物を使う方法
     シリコンでできたインプラント (人工乳房) を胸の皮膚・筋肉の下に埋め込む方法です。乳がんの手術で胸の皮膚が切り取られて不足がある場合は、まずティシューエキスパンダーという風船を埋め込んで半年から一年程度かけてふくらましていき、胸の皮膚の余裕を作ったあとにインプラントと入れ替えます。この方法の最大の利点は体のほかの部分にキズをつけなくてすむことです。また、手術は比較的単純で手術時間も短い (1〜2時間) です。一方、欠点としては再建する乳房の形がインプラントの形で決まってしまうため、下垂した乳房などは作りにくいことがあります。そのため、反対側の乳房に何らかの手術を行って左右の形を合わせることもあります。また、胸元のへこみや腋のラインまではインプラントが届かないため、そのような部分の形を改善するのは困難です。インプラントは胸の筋肉(大胸筋)の下に入れるので、動きがありません。つまり、ブラジャーで位置を上げたりはできませんし、仰向けになっても形はそのままです。
     また、ティシューエキスパンダーやインプラントは体にとっては異物であるため、感染 (細菌によって再建部分が膿んでしまうこと) などの合併症に弱いということがあります。一度感染が起きてしまうと、インプラントを取り出さざるを得ない状況になることが多く、再建は一から出直しとなります。また、カプセル拘縮 (被膜拘縮) という合併症も起きることがあります。これは体の反応によってインプラントのまわりに膜ができて、それが収縮することでインプラントの形が不自然に浮き出てしまったり痛みを生じたりすることです。放射線治療を受ける場合はカプセル拘縮が起こりやすくなることがわかっています。この手術で起こりうる主な合併症としては、前述の感染、カプセル拘縮の他に、胸部の皮膚の壊死、エキスパンダーやインプラントの位置の異常や破損などがあり、手術などで対応する必要が生じます。シリコンインプラントで再建した場合、その後10年で何らかの合併症が起こる確率は20%程度といわれています。シリコンインプラントの耐用年数についてははっきりした指標はありませんが、破損が見つかれば交換が必要となることがあります。心構えとして、10〜20年程度で入れ替えの手術が必要になるかもしれないと考えておいた方がよいでしょう (必ず再手術が必要になるというわけではありません)。
     この手術は最近まで自費診療で行われていましたが、2013年7月から保険診療でできるようになりました。ただし、保険診療が適用されるのは認定を受けた施設に限られます。日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会のホームページ( http://jopbs.umin.jp/index.html )に認定を受けた施設の一覧があります。当院は2013年8月中旬に認定を受け、保険診療でのティシューエキスパンダー挿入手術を行っています。
       1980年代から90年代にかけて、シリコンインプラントがいわゆる膠原病を引き起こすのではないかと疑われた時期がありました。この疑いについては大規模な調査研究が行われ、シリコンインプラントの安全性が確認されています。

             
         シリコンインプラントによる再建 (同時再建 写真左:乳癌切除前、写真右:再建終了時)


    自家組織 (自分の皮膚や皮下脂肪) を使う方法
     自分の皮膚や皮下脂肪を胸に移植して乳房の形を作る方法です。自家組織は下腹部や背部から筋肉 (腹直筋や広背筋) を含めて採取するのが一般的ですが、当科では筋肉へのダメージを最小限に抑え、機能を残す手術を行っています (穿通枝皮弁; DIEP flap・・腹部から採取, TAP flap・・背中から採取, SGAP flap・・お尻から採取など)。採取した自家組織は血液の循環を保ったまま胸部に移植する必要があるため、血管がつながったまま移植する方法 (有茎皮弁移植) や移植先で血管をつなぎ直す方法 (遊離皮弁移植) をとります。自家組織による再建の利点は、より自然な乳房を再建できることです。自分の組織なので異物反応を起こすことはなく、手術から時間がたつにつれて乳房らしい柔らかさがでてきます。また、ある程度なら下垂した乳房も作ることが出来ます。放射線治療にも対応できます。また、健康保険が適用されています。欠点は、体の別なところから組織を採取するために大きな傷をつけなければならないことです。手術は複雑で長時間に及び(7~12時間程度)、体への負担が大きいため入院期間も2週間程度と長期になります。また、下腹部などに十分な量の脂肪がない場合は自家組織だけで左右対称な形を作るのは難しくなります。この手術の主な合併症としては、移植した自家組織の血液の循環が不安定な場合に組織の一部あるいは全部が壊死することがあること、感染、胸部の皮膚の壊死などがあります。それぞれに対し、手術などの方法で対処することになります。特に移植した組織の全部が壊死した場合 (確率は3〜5%です)、再建ははじめからやり直しとなります。また、自家組織による再建の応用編として、まず前述のティシューエキスパンダーで胸部の皮膚の余裕を作っておいてから自家組織を移植するという方法もあります。この方法では手術の回数が一回増えますが、自家組織を胸の皮膚の下に埋め込んでしまえるため胸のきずあとは少なくてすみます。

             
          自家組織による再建 (二次再建 写真左:乳癌切除後3年、写真右:再建終了時)

    人工物か自家組織か決めかねている場合

     ひとまずティシューエキスパンダーを入れる手術を行っておき、その後にシリコンインプラントに入れ替えるのか、自家組織を移植するのか、ゆっくり考えて決める、ということもできます。これは、同時再建することを考えてはいるが、手術まで余裕がないために人工物か自家組織かを決めかねているという場合によい方法です。乳がんの手術のときに同時にティシューエキスパンダーを入れておけば、次の手術まで通常1年ぐらいの間隔がありますから、この間に人工物、自家組織それぞれの利点・欠点を十分理解したうえで手術法を選ぶことができます。もちろん、二次再建に取りかかりたいが手術法を決めかねている、という場合もこの方法をとることができます。

    乳房温存手術後の変形に対する手術 

     乳房温存手術では基本的に再建は必要ありませんが、放射線治療による組織の萎縮などによって予想外の変形が起こることがあります。こうした場合でも再建手術で形を改善することができます。この場合は人工物を使用するのは困難で、自家組織による再建が原則となります。
       

     実際にはいろいろな手術方法があり、それぞれに長所と短所があります。手術法の決定に際しては、再建の時期 (同時再建か二次再建か) を決めていただいた後、個々の患者さんに合っていると思われる手術法をいくつか提示します。それぞれの長所・短所を理解いただいた上で最終的には患者さん自身で手術法を選択していただくという手順になります。特に、起こりうる合併症についてよく理解していただく必要があります。乳房再建も手術である以上、よい結果が100%保証されるわけではありません。元通りの乳房が取り戻せるわけではありませんし、左右が完全に対象になるわけでもありません。合併症を生じた場合、再手術が必要になったり、期待通りの結果が得られないこともあり得ます。

  • 費用について

     再建の方法、予定される手術の回数、入院の日数などによりかかる費用も様々です。人工物を使用する方法についても自家組織を使用する方法についても健康保険が適用されます。

    3割負担の場合の自己負担額の目安としては
    自家組織による再建の場合 30万円〜50万円程度
    ティシューエキスパンダーの挿入手術 20万円前後
    シリコンインプラントの挿入手術           30万円前後
    ですが、実際には自己負担割合や入院期間などにより金額が大きく変わります。また、高額療養費の払い戻し制度が利用可能ですので、その申請を行えば実質負担額はおよそ10万円程度となります。

  • 問い合わせ先

    電話 0561-62-3311 (愛知医科大学・代表) 内線35700(形成外科外来受付9:00-17:00)

    e-mail:keisei@aichi-med-u.ac.jp

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